おぶせの里だより

医療関係者が自身の経験談や体験談、趣味に関する小話をおぶせの里からお届けします。

こころの豊かさを求め、自分探しの旅(母校での講演より)<3>

ODA

 ODAということは聞いたことがあると思いますが、政府開発援助というものがあります。バングラデシュに対するODA政府開発援助というのは、有償・無償合わせると、世界各国から援助がきていますが、全体の45%を日本が占めていると言われています。そのため、バングラデシュは日本に非常に好意的なんですね。国旗も日本と非常に似ていて、緑地に赤の日の丸です。ただ、このODAというのは最近問題になっており、本当にその国に役立っているのか、単に予算を消化するために大型のプロジェクトを施行しているのではないかという事で問題になっています。バングラデシュもご多分に漏れず、そういうのがあります。


失敗例と成功例をお話しします。

 ガンジス川を横断するのに、カーフェリーで3時間から4時間かかります。それに洪水も非常に多いため、橋を架けることができなかったのですね。数年前、日本のODAからお金を出して、韓国の企業が人々の永遠の夢だった大きな橋を造ったのです。日本でいう瀬戸大橋みたいな感じですが、そこに車と人、それから鉄道も通れる大きな橋を造ったのです。国中あげてのお祭り騒ぎとなって、一大観光の名所になってます。バングラデシュはほとんど観光地がないので、観光の名所になっていて、毎日大勢の人が押しかけて見物します。私たちが医療協力をしている地域でボグラというところがありますが、ボグラ県というのは首都のダッカから北西に大体220キロくらい離れたところにあります。人口は220万くらいあります。今までその所に行くのに、大体8時間から10時間かかりましたが、この橋ができたおかげで、私たちもカーフェリーを利用して大体半分くらいの5~6時間で行けるようになったんです。これは非常に良かった例ではないかと思います。f:id:obusenosato:20200602172733j:plain

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 一方で、失敗例をお話ししますと、バングラデシュでは、裕福な人というのは病気になりますとどうするかというと、自分の国の病院には行かないんですね。特に心臓の手術とか大きい手術になりますと、インドとかアメリカに行って手術をします。日本大使館の職員なんかも同じで、大きな病気にかかると、日本に帰国して治療を受けます。余談ですが、大使館に10年前にお邪魔したことがありますが、そこにお医者さんがいるんですね。日本人の大使館付きのお医者さんがいます。中を見せてもらったのですが、バングラデシュに一台もないMRI(磁気を使った装置で、CTスキャンは輪切りにして撮りますが、MRIは人間の体を輪切りにして診断します)が日本大使館にあるんです。日本でも非常に大きな病院に行かないとないんです。大使館の職員とその家族のためだけにMRIがある、これを皆さんはどう思われるでしょうか。大阪の方に心臓専門の循環器の大きな病院があります。そこに匹敵するような機械設備の整った心臓専門、循環器専門の病院を、ODAのお金を使ってダッカに造ろうということで造ったのですね。その循環器病院センターのお医者さんとか技師が来て指導しました。初めの頃は良かったのですが、彼らが帰国して自分達だけで管理運営するとなるとどんどん問題が出てきて、結局潰れてしまったのです。心臓の病気なので、高度な医療器械がたくさん入っています。それが一度故障すると、精密な電子機器なので直すことができないのですね。彼らの手には負えなくなってしまう訳です。そういうことが次々と繰り返されて、使われなくなると倉庫にしまわれてしまって、結局病院自体が機能しなくなり、潰れてしまうという事が起こったのです。一方で、青年海外協力隊という、非常に地道な活動をしている国の下部組織がありまして、そういった方たちは住民の中に入って、住民のニーズに沿った援助をしていきます。そういった事が非常に大切だという事が今見直されてきています。机上だけの考えでは失敗する、そういうことだと思います。