おぶせの里だより

医療関係者が自身の経験談や体験談、趣味に関する小話をおぶせの里からお届けします。

バングラデシュ 今昔

 1992年初めてバングラデシュへ医療協力で出かけるようになって約2年が経った。その間目覚ましく近代化が進んでいる一方、旧態依然の状態もあり、特に貧富の差が著しくなっており、そこにスポットをあて日本との違い等も含め雑感として述べてみる。

そのⅠ)戸籍は?

 外来に苦しそうな様子をした70歳~80歳と思われる女性が入ってきた。「キイオシュビダ(ベンガル語でどうしましたか?の意)」、「アマール  ベテ ベタ(胃が痛いです)」......一通りの問診の最後に「アプニ ボイシュ コト(何歳ですか?)」と聞くと、なんと驚いたことに真顔で「チャビシュ(26歳)」と答えたのである。聞き間違いかと何度聞いても同じ答えが返ってくる。認知症はないと現地のドクターは言う。さらに子供や孫も沢山いるという。周りのスタッフはニヤニヤしながら教えてくれた。この国にはちゃ んとした戸籍がないし、識字率が38%位なので、自分の生年月日を正確に覚えている人は少ないのだそうだ。それにしても26歳はないだろう。漫才でもやっているような雰囲気だ。そういえばこんな話を聞いたことがある。ある外国の企業が20歳~39歳までの従業員を募集したところ40歳以上と思しき中高年者は全て自称39歳といって応募してきたし、5-6歳から19歳の子供達まで20歳といって応募してきたという。年齢詐称という意識はないようなのである。医療協力している病院の院長は生年月日を3つ持っていて使い分けしているとの事。1つは車の運転免許用、2つ目は選挙やパスポート用などと使い分けしているという。嘘みたいな本当の話である。従って、外来で患者に年齢を尋ねるという習慣は日本と違ってないのである。カルテには一応生年月日は書いてあるが怪しいらしい。

 世界最貧国の一つであるバングラデシュは1971年にパキスタンから独立した。自然豊かな「水と緑の国」バングラデシュ。北海道と九州を併せた位の国土に約1億6000万人の人が住む。その約80%が農村で、農村部は半数以上の人々が1日1米ドル未満で生活するという。28年前は、乳児死亡率は出生1,000 に対して82人位で、1年に約37万人が1歳の誕生日を迎える前に、さらに約27万人が5歳までに死亡する。 死亡原因の多くは下痢や栄養不良によるものといわれる。劣悪な衛生状態と貧困が悲劇を生み出している。

 バングラデシュの発展は一部ではめざましく、一部では旧態依然の状態が続いている。貧富の差が非常に広がっ てきている。特に都会と農村の格差は一目瞭然である。首都ダッカには3000以上のスラム街があり、 ダッカの人口の3分の1はそこで暮らしている。劣悪な環境の下で日本では見られなくなった感染症や病気が蔓延している。医者にかかれず亡くなって行く人々が数多くいる。しかし、彼らは生きることに貪欲で、誇り高き民族で、決して自分を卑下しない。人々は貧しくとも、希望を失わず、明るく一日一日を一生懸命に生きている。