おぶせの里だより

医療関係者が自身の経験談や体験談、趣味に関する小話をおぶせの里からお届けします。

こころの豊かさを求め、自分探しの旅(母校での講演より)〈2〉

 交通事故

 

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 これは日本の中古車なんですけれども、むこうでは日本の車が重宝されております。中古車もかなり入ってまして、日本ではもう車検の通らない車まで沢山走っております。ダッカ国際空港から一歩外に出ますと、非常にムッとするような暑さで湿度は大体90%以上になります。温度は35,6度になりますので、非常に蒸し暑くて汗がジトジト垂ってまいります。それでこの国の特有な、悪臭といったらいいのでしょうか、そういう異様な臭いがあって、怒声と罵声、乞食とか置引といった光景が目に飛び込んできます。異次元の世界に紛れ込んだような錯覚に囚われて、ひどいカルチャーショックに襲われます。このバングラデシュというのは非常に不思議な国で、一回行きますと、もう一度行きたいという人と、もうこんな国には二度と行きたくないという、そういう二通りの人に分かれるといわれています。この「もう二度と行きたくない」という人はどういう人かといいますと、非常にきれい好きで、潔癖感の強い人はもう二度と行きたくないと言います。私はそういうことはないんで、二度・三度・・・まぁ十回近く行っている訳ですけれども、非常に不思議な国であります。

f:id:obusenosato:20200519173532j:plain これはガソリンスタンドで、隣に写っているのがオート三輪を改造した、タクシーなんですね。向こうでは「ベビー・タクシー」と呼んでます。だいたい六人くらいお客さんを乗せて走るんですけれども、街の中をみると六人なんていうのは絶対なくて、大体二十四、五人くらい、すし詰めになって乗って走っているという、そういう状況です。

 

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 これが「リキシャ」といわれる乗物で、自転車ですね、昔の日本でいう人力車を後ろにつけて、自転車で引いて走る訳です。後ろにお客さんを二人か、ちっちゃい子供を入れて三人乗せます。雨なんか降ってくると、これに対応して、自転車をこぐ人はずぶ濡れになりますけれども、お客さんは濡れないように工夫されています。それでこの後ろに、日本でいうトラック野郎なんかで、自分の好きな絵とかが描いてありますけれども、そういうペイントしたのを自分で好きに描いております。これがリキシャという乗物です。むこうでもリキシャといいます。

 

f:id:obusenosato:20200519173824j:plain 男性の着物というのが、ルンギといいまして、下には何と言いますか、布一枚が腰に巻いてあるだけなんですね。それで中はスッポンポン、パンツははいていません。道路の脇でしゃがんでいると、必ずそれはトイレをしているという非常に簡単に便利といいますか、非常に重宝な着物であります。これがルンギといいます。

 

f:id:obusenosato:20200519173920j:plain それから、こういうふうに屋根の上までバスに乗っている、そういう姿をみかけます。ふつうは荷物しか載せないんだと思うんですけれども、しょっちゅう、こういう風にバスの上まで人が乗っています。非常に不思議な光景です。日本ではこんな事は、絶対交通ルール上認められないわけです。それで、非常に交通事故が多いのです。トラックなんかでも、満載以上に載せたトラックというのも往来します。それが80キロ以上のスピードを出すわけです。交通事故が毎日のように起こります。日本より多いと思います。これが猛スピードですれ違いますので、街路樹なんかに頭がぶつかってしまうんですね。そうすると、上に乗っている人の首がへし折れて死んでしまうという事が起こります。ある時、私たちの乗っている車の運転手さんが歩行者を撥ねてしまったことがあるんです。そこに大勢の人が集まってきました。私たちは、怪我人を手当てして救急車を呼ばなければということで、車外に出ようとしました。すると、運転手さんは「危険だから出ないように」といって、車を走らせてしまったのです。明らかにひき逃げなんですね。私たちは彼を非難して、「戻って、ちゃんとやるように」ということで叱りました。しかし、彼はこれで良いんだというのです。「怪我人は、集まってきた人たちがきちんと世話して、救急車とか病院に運ぶから大丈夫なんだ」と言うんですね。どういうことなのかというと、ここはバングラデシュなんですね。バングラデシュというのは75%以上がイスラム教徒なのです。イスラムの世界というのは「目には目を、歯には歯を」の世界です。あの場面で車から降りたら、集まった人たちに叩かれたり石で打たれたりして、私たちが怪我したりあるいは死んでしまうということが起こるのです。ですから、その場は逃げて、後からほとぼりが冷めたころ、謝りに行ってお見舞いをすればいいと言うのです。文化の違いといってしまえばそれまでなんですけれども、何とも後味の悪い出来事でした。

 

f:id:obusenosato:20200519174007j:plain これは列車ですね。列車の上も中も超満員です。列車の場合は掴まる場所が無いので、振り落とされたりとか、しょっちゅうあるらしいのです。

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非常に不思議なのは、これは走っている列車なんです。止まっている列車じゃなくて、走っている列車をカメラに収めたものです。両脇には露店やお店屋さんがあって、鉄道の線路というのは生活の道路になっております。こういうふうに、線路の上は生活道路になっているということなんです。列車が行ってしまうと、またお店を広げて、線路の上を人々が通行するわけです。こういうのどかな光景も見られます。

 

f:id:obusenosato:20200519174146j:plain これは、物乞いをする人ですけれども、バングラデシュでは、物乞いをする人をあちこちで目にします。車が信号待ちで停止したり、渋滞したりしますと必ず寄ってきまして、窓を叩いて物乞いをいたします。イスラム教では、貧しい人に施しをすることは裕福な人の務めの一つで、物乞いをする人・施す人、両者ともそうすることが当然だというふうに思っているのです。また手荷物なんかを椅子に置いてちょっと離れた隙に、無くなっているということがよくあります。最初に行ったころ、そういうことを知らないで、同行の看護婦さんが手荷物を座席に置いて、ちょっとトイレに行った隙に、もうなくなっちゃったということがありました。中に大した物が入ってなかったので良かったのですけれども。そういう風な事が起こります。これは、置いておく人が悪いので持って行く人が悪いんじゃない。泥棒にならないんですね。向こうの人は「置いてある、あぁ有り難い。アラーの神のお恵みだ」という感覚なんですね。そういうふうな感覚でありますから、日本とだいぶ様相が違います。まあ、日本では考えられないような世界であります。

 

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 この人は交通事故で足を骨折したのですけれども、そういう人が物乞いをするのです。また後ろにいるお婆さんも、物乞いをしているのです。こういうことがありました。三十過ぎの男性が、病院に担架で運ばれてきました。交通事故で足を骨折しているみたいで、動けないというのです。レントゲンを撮ってみますと、確かに骨折してるんですね。少しズレているだけで大した事がないので、「整復して鋼線を刺して固定し、ギブスを巻けば大丈夫です」ということを本人に説明しますと、嫌だと言うのです。「ギブスを巻いたり入院したりすると、明日から仕事ができなくて、家族は飢え死にしてしまう。だから、入院するのは嫌だ。足を切断してくれ」と言うんですね。こんなことは日本では考えられないことで、ギブスを巻きちょっとすれば治っちゃうのを、切断してくれと言うんです。とてもびっくりしました。バングラデシュでは、一日50タカといいますから、大体1タカが日本円で言いますと2円に相当しますので、100円あれば一家を養っていけるんです。ご飯と、先程話しましたダルスープですね、それを一日二回食べますけれども、それで一家十人くらいが食べていけるんです。一日100円ですよ。そのお金を得る仕事がなくなると、たちまち日干しになってしまうんです。ですから、大した骨折でなくても、足を切断して物乞いになった方が、家族が生きることができるんです。これもバングラデシュの貧しい人の一面を覗かせているのではないかと思います。