おぶせの里だより

医療関係者が自身の経験談や体験談、趣味に関する小話をおぶせの里からお届けします。

技術を習得させるには

 私は春になると体がうずうずする。高校時代山岳部だったこともあり山に登ったり、山菜取りをするのが楽しい。近年は年を取ってきたので純粋に登山というのは少なくなったが、趣味と実益を兼ねて山菜取りと家庭菜園に夢中になっている。特に、根曲がりダケ取りにはシーズン中10回くらい山に入り、リュックいっぱい取ってくる。小布施に来る前は根曲がりダケのことは知っていたが取ったことがなかった(山形では両親や家内もよく行っていたが...)。小布施に来た当初、 ピクニックで奥山田の七味温泉に行った事があり、職員が根曲がりダケ取りを川原のタケヤブでやりはじめたので私もやってみた。細い小さい竹ノコ しか取れず周りの人に笑われてしまった。取り方、見つけ方を知らないとやれないことを身をもって知った。2~3年して、知り合いの人が根曲がりダケ取り に行こうと誘ってくれたが断ろうとしたら、名人、商売人がいるから行こうと誘われ出かけた。早朝3時半に集合、車に乗り合わせ高山村から万座温泉へ抜ける途中で車を止め、身支度をして竹藪の中を下って行った。名人が私のそばで見つけ方、取り方を教えてくれた。そばで取って見せてくれて、探し方を教えてくれ、 遭難しないコツやクマに出会わないためのコツ等手取り足取り教えてくれた。名人は大きいリュックに一杯、私は小さいリュックにそれでも1/3位取れて大満足した。その後何回か連れて行ってもらい今ではシーズンになると約10回近く山に入り根曲がりダケ取りやワラビ取りを楽しんでいる。

 私は大学時代硬式テニス部に入った。大学では学業が難しくなるのであまり体力を使わず女性でもやれる簡単そうなテニス部を選んだ。スポーツは好きだったので初めてラケットを持たされボールを打つ場面になると当てるのがやっとで、空振りか当たってもホームランといった状態でうまくいかないことを実感した。そんな中、先輩たちが構え方や素振りの指導、テニスの理論等を教えてくれたおかげでそこそこ上達し、対抗戦や学三の時東医体へも出場することができ、ダブルスで1勝できたのは思い出で、卒業後もそれなりにテニスを楽しんでいる。ペアを組んで保険医協会のテニス大会で準優勝、中野市長杯で3位を取ったのは今では懐かしい思い出である。球技で大切なことは最後まで当たる瞬間までボールを見ることと教えられたのもテニスだった。ゴルフは止まっているボールを人が止まって打つ。野球は動くボールを止まって人が打つ。テニスは動くボールを動く人が打つ。テニスが一番難しそうだがどの球技も奧が深く難しい。しかし大切なことは打つ瞬間までボールから目を 離さないことだということは共通しているようだ。ワンポイントのアドバイスと褒められることで向上心が生まれ技術的に少しずつではあるが伸びていったよう に思う。

 私はカービングスキーにはまってしまった。小賀坂スキーのローカススキークラブに入れてもらいスキー指導員を指導する指導員(焼鳥屋のおやじ)に教えてもらった。彼はとてもユニークで巨人軍の長嶋茂雄名誉監督と似ていて動物的カンとかイメージを大切にし「フワーンフワーンと軽く雪の上に身を任せるようにするとどんな時でもきれいに回転できる」といったようにワンポイントアドバイスをしてくれるが、こちらは昔のクセが残っていて思うようにいかない。しかし彼はよかった面をほめてくれるので次頑張ろうという気持ちになりビデオで見直ししてみると最初の頃よりかなり上達していると実感できうれしくなる。

 4月から5月にかけての連休を利用して、4年ぶりに世界最貧国の一つバングラデシュに出かけてきた。

 2016年ダッカで起きたテロ事件でJICAの職員が殺害されたのは記憶に新しい。それまで1992年から毎年バングラデシュで医療協力を行ってきたが、中断せざるを得なかった。状況が変わってきているとの情報で医療協力が再開できるか視察に北海道の整形外科の先生と二人で出かけてきた。ダッカは数年前と比べ大都会へと変貌を遂げつつある。1964年の東京オリンピック前後の東京の様相さながらの発展ぶりで、スラム街が壊され、ビルディングが次々と建設されて近代化が進んでいた(ほとんど中国資本らし い)。一方田舎のほうでは少しずつではあるが発展を遂げつつあるが、貧富の差が益々拡大しているようだ。医療面では少しずつではあるが発展途上といったところか、パソコンやスマホ等で薬や病気の情報をすぐ手に入れることができ、内科的医療面での発展は目覚ましい。しかし外科系の手術等に関しては情報は入ってくるが実際にやるとなると上手くできない事が多いようだ。f:id:obusenosato:20200529172550j:plain

 バングラデシュでは知識では外科の手術は知っていても日本のように研修制度が整っていないので技術を盗むしかない事(教えると患者を取られてしまうため)が多い。学会などもほとんどなく(ようやく少しずつ出来てはきているが)知識はパソコンやスマホで得ることができて技術を修得し発展させることができない。頭でっかちの状態である。テニスや野球などのスポーツで一流の選手を見ていると簡単にできそうに思うが実際やってみるとできないのと同じように、手術も一見簡単そうに見え、上手な先生を見ていると簡単にできそうだが、実際やらせるとできない。コツや経験が必要なためである。基本的な事からキチンと一つ一つ手技、コツを教えられやってみて、少し褒められて上手になっていく。これが今のバングラデシュでは必要なのかもしれない。

「やってみせ言って聞かせてさせてみて誉めてやらねば人は動かじ」(山本五十六)