おぶせの里だより

医療関係者が自身の経験談や体験談、趣味に関する小話をおぶせの里からお届けします。

こころの豊かさを求め、自分探しの旅(母校での講演より)<5> (1/3)

バングラデシュの医療事情

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ここは私達が行っていた医療協力の中心地、ボグラ病院です。

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ここは手術室です。

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これはレントゲンの器械です。こんなちゃちなレントゲン器械なので、ちょっとした単純写真くらいしか撮れません。

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これは日本から持って行った超音波の古い器械です。

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これは胃カメラの装置です。

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また向こうの病院には、普通の人が入れない様に鉄格子で柵がしてあります。必ずどの病院もです。大学病院でも一般の人が入れない様に番人がいます。そうでないと、どんどん入って来てしまってシッチャカメッチャカになってしまします。

 バングラデシュにはたくさんの医学部や病院があります。お医者さんも大勢います。しかし、貧しいがゆえにその状況は決して良いとは言えません。一口で言えば、医療のレベルが日本に比べて非常に遅れています。例えば設備で言えば、レントゲン機械、超音波、心電図が揃っていればいい方なのですが、大学病院でさえ無いという所もあります。胃カメラなどは、限られた専門医の病院にしかありません。しかし、そういう専門医から送られてる診断というのも、誤診が非常に多いんですね。これが本当に専門家なのかと疑ってしまいます。外科の手術に至っては、手術後の合併症というのが必発です。これは医者の教育に問題があるからなんですね。というのは、手術の仕方を上の先生が下の先生に決して教えません。教えると、将来自分のライバルになって患者を取られる恐れがあるからです。ですので、テックニックは見て覚えて盗むしかないんです。ボグラの病院に勤めている先生を私が何回か指導したのですけれども、日本にも来て3か月研修していきました。外科の手術の初歩と、胃カメラとエコーを学んでいきました。短い期間だったので、ほとんど何も自分でできないのです。しかし、バングラデシュに帰ると、彼は「日本に留学してライセンスを取った」という看板を出して開業したんです。それだけで大勢の患者さんが集まって流行っているんです。彼も技術的にはまだまだなのに、そういう形で開業して成功することが出来るんです。

 医療事情で非常に困った問題があります。清潔・不潔の問題です。こういう事がありました。手術中に私が誤ってハサミを落としてしまいました。もちろんそのハサミは不潔です。別の新しい消毒されたハサミを出すようにお願いしました。すると、床に落ちたハサミをナースが右手で拾って手渡そうとしたのです。「そのハサミはもう不潔だから駄目だ。」と言うと、「なんで私の右手が不潔なんだ。」と怒るんです。忘れていました。ここはイスラムの世界です。イスラムの世界では、右の手は清い手、左の手は不浄の手なのです。食事は右手でします。トイレは左手です。笑い話のみたいですが、これが現実なんです。教育するのに非常に時間が掛かった事がお分かりになると思います。ここバングラデシュでは、日本の手術室の様に設備が整っていません。何でも揃っている所でしか手術をやった事のない、日本の優秀な外科医がここに来ると手術が出来なくなります。道具が揃っていないからなんですね。ここでは工夫しないとやっていけません。例えば、腰の椎間板ヘルニアというのがあります。そういう患者さんは、腰を引っ張る牽引装置、日本には素晴らしい牽引装置がありますが、ここにはありません。でも、心配は要りません。どうするかと言いますと、腰に厚めの布を巻きます。それをロープで縛って、向こうには乳母車があるので、その車を滑車にします。そしてバケツもありますから、バケツに砂を入れて、そのロープに縛るわけです。そしてベッドの外に下げる事で、腰を引っ張る事が出来るのですね。また、こんな事もありました。手の手術をする時、非常に細かい手術で顕微鏡を使います。脇の下に麻酔をし、その後脱血します。ゴムバンドを手からずぅーと巻いて、上腕の所まで締める事によって、手術で切開しても血が出ません。そういった手術があるのですが、ここにはそういう機械がありません。それでも心配ありません。血圧計があります。それからタイヤのチューブもあります。タイヤのチューブをぐるぐる巻きにすれば、同じ様な事が出来るんです。このように、工夫すればほとんど同じ様にする事が可能なんです。しかし、大丈夫でないのが麻酔なんですね。麻酔は非常に大問題でした。 (つづく)