おぶせの里だより

医療関係者が自身の経験談や体験談、趣味に関する小話をおぶせの里からお届けします。

こころの豊かさを求め、自分探しの旅(母校での講演より)<5> (2/3)

バングラデシュの医療事情(つづき)

ここは外来です。

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これは手洗いをしている所です。普通の水道水で洗うんです。消毒も何もされてない所でやるので、非常に不潔なんです。

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これが麻酔器です。

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見たことがない方には分からないかもしれませんが、これは野戦病院にあるような麻酔器なんですね。しかもエーテル麻酔なんです。エーテル麻酔は学生時代教科書では習った事はありますが、実際に現場で見たのは初めてでした。今、エーテル麻酔というのは使わないんですね。電気メスを使うので爆発の危険性があるという事と、麻酔深度に非常に問題があって、麻酔がかかりにくい、かかっても非常に深かったりとコントロールが難しいというので全然使われないんです。しかも、専門の麻酔科のお医者さんがいません。最近やっと増えてきましたが、看護助手が麻酔をかけます。

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こういう風に手前がナース、その奥で患者さんに寄り添って麻酔をかけているのが看護助手です。ですので、麻酔というのは挿管もしないでやります。マスクでかけるので、脇からガスが漏れてきます。そうすると、手術をしている私まで眠くなってくるんです。さらに悪いことに、麻酔の深さが深いと、呼吸停止と心臓が停止してしまいます。腹の手術では、出血の色が今まで赤かったのが急に真っ黒になってきます。見るともう心臓も停止して、呼吸まで停止しているんですね。急いで心臓マッサージをして事なきを得たというのがもう十回位ありました。ここ3,4年でやっとエーテル麻酔がなくなって、麻酔科医がきちっと麻酔をかける体制が出来てきたので、その点は安心になってきました。それから、停電がしょっちゅうあります。ですので、懐中電灯の中で手術するという事を数多く経験させられました。これがバングラデシュの医療事情なのです。

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この子はお腹に膿が溜まって熱が下がらないという事で診たのですけれども、肝臓に膿が溜まってお腹がパンパンに膨れていました。切開したら膿がドロドロ出て、膿盆一杯どころか三杯程出てきました。ですが、手術が終わって次の日にはもうケロッと、熱も下がって元気になりました。

 

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これは回診の風景です。

 この国では右手に障害がありますと特に悲惨です。バングラデシュでは右手は清い手です。この子は右手に障害がありました。摘まんだり握ったり出来なかったんです。ですから、食事をする時には、家族の食事が全部終わった後で、一人で誰も見ていない所で食べていました。今では右手が使える様になったので、「手が使える様になったよ」「握ることもできる様になったよ」と、物を掴んで拾ってくれました。

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彼女の生活は一変しました。今まで一回も家から出た事がなかったのに、今では学校に通っているのです。そして将来は看護婦さんになりたいと、目を輝かせて話してくれたのを非常に印象的に覚えています。 (つづく)