おぶせの里だより

医療関係者が自身の経験談や体験談、趣味に関する小話をおぶせの里からお届けします。

スポーツ障害相談会

 私が勤務している地域では、幼・保育園から小・中学校までの一貫教育として「身体づくり事業」という活動が行われています。この活動は、子どもたちの発育発達に応じた体力向上プログラムを作成し、機能性の高い身体の使い方と運動習慣の獲得を目的としたものです。理学療法士アスレティックトレーナーが中心となり、定期的に子どもたちと交流しながら運動指導を行っています。

 私は現在、その事業の一画である「スポーツ障害相談会」という活動を担当しており、中学校を週1回程度訪問しています。成長期にあたる中学生の身体は成熟した大人になる準備段階であり、決して大人のミニチュア版ではありません。中学生は中学生であるがゆえの身体的特徴があり、スポーツによる身体の不調・不安を抱えている生徒さんが少なくありません。相談会ではそのような生徒さんに対して個別に対応し、問題解決に取り組んでいます。

成長期スポーツ障害の特徴

①骨が弱い
 外傷(転倒など1回の大きな力による組織の損傷)だけではなく、長期的に繰り返されるメカニカルストレスによる障害(疲労骨折や軟骨損傷)が発症しやすいのが特徴です。

自然治癒力が高い
 これは良い特徴として捉える事も出来ますが、障害の状態によっては早期に適切な対応が求められる事を意味します。損傷や炎症を繰り返すような組織は、結果的に成長・機能障害を引き起こしてしまう事があります。

③骨端線の存在
 成長期の骨には、骨の生産工場の役割である成長軟骨(骨端線)が存在します。軟骨ですので構造的に弱いです。スポーツによる負荷で障害を受けやすいことに加え、状態によっては骨成長異常を引き起こしてしまう事があります。

筋肉の柔軟性低下
 成長期は身長が急激に伸びます。言い換えれば骨が急激に伸びます。しかし、その骨と骨をつないでいる筋肉は成長が追いつかず、常に骨に引っ張られているイメージとなります。すると筋肉は相対的に短縮している状態となり、柔軟性が低下していきます。この筋肉の柔軟性低下は、様々な障害の発生率を高めることが分かっています。

 上記のような特徴を踏まえ、私たちはスポーツ障害相談会の目的・役割を以下のように位置づけています。

①スポーツ障害の予防と早期発見
 それほど強い痛みではない、常に痛いわけではない、などといった症状から病院へ行く程ではないと判断してしまうケースがたくさんあります。そのような生徒さんに積極的に声をかけ、相談会へ誘導します。初期症状のうちに対応出来れば、重篤化を防げる可能性は非常に高くなると考えられます。

②コンディショニングの基本であるストレッチング指導
 成長期の身体的特徴から筋肉の柔軟性が低下し、様々な問題を引き起こすことは前述した通りです。身体の不調の有無に限らずですが、スポーツ選手にとってストレッチングによる身体のケアは必須です。しかし、そのストレッチングを正しく指導できる環境がなかなかありません。私たち専門家がその重要性を伝え、正しく実施できるよう指導しています。

医療機関誘導による早期診断
 相談会だけでは身体チェックに限界があります。何か身体の器質的異常を疑う場合は、医療機関への受診を検討してもらいます。

 これまで延べ100名を超える相談を受け、その多くの生徒さん達にストレッチング指導を行ってきました。学校の先生方や部活動指導者の方々の協力も得ながら、少しずつですがストレッチングの意識、習慣が学校全体で広がってきています。そして実際に相談会を利用してくれた生徒さん達も、ストレッチング習慣によって症状を改善できているという結果も伴っています。自身の努力で得られた身体の変化、この経験は是非大切にしてもらいたいです。そして限られた学生生活の中で、思う存分スポーツにも打ち込んでもらいたいと思っております。

 まだまだ小規模であり試行錯誤しながらの活動ではありますが、地域における各分野の専門家が連携を高めながら、子どもたちの発育発達、地域スポーツ活性化の一助となれば幸いです。