おぶせの里だより

医療関係者が自身の経験談や体験談、趣味に関する小話をおぶせの里からお届けします。

こころの豊かさを求め、自分探しの旅(母校での講演より)<6> ①

 バングラデシュの砒素中毒(1)

 ガンジス川の流れる、いわゆるヒマラヤ下流域にあるバングラデシュやインドの西ベンガル州、ネパール南部のタライ平原で、飲料水の砒素汚染が大きな問題になっています。

 もともとこの地域の人々は、川、池の水そして表層水を汲み上げるダグ・ウエルと呼ばれる"つるべ式井戸"、これが生活用水だったのですが、消化器系の伝染病や寄生虫が非常に多く出るため、ユニセフが中心となって"チューブ・ウエル"という井戸を設置しました。

 このチューブ・ウエルというのは、大体水深20m位の地下水を手押しのポンプで汲み上げる方法なのですが、その水が砒素汚染の原因だといわれています。「池の水の代わりに、チューブ・ウエルの水を飲みなさい」と言われて、それまでの生活習慣を変えた人々が、今度はその水を飲まないようにと言われる皮肉な状況が起きてしまいました。

 安全な水を供給し、食料自給率を上げるために部外者が入り込んで、地域の人々の伝統的な暮らしを変えていったところに、また新しい問題が起こる。開発協力の難しさがここにあります。

 バングラデシュの政府の統計によりますと、全国に六百万から一千万くらいのチューブ・ウエルの井戸があるといわれています。そして、砒素中毒患者数は約一万人と見積もられています。さらに、一億三千万の人口のうち、三千五百万から七千万の人々が砒素中毒の危険にさらされているといわれています。

 慢性の砒素中毒の特徴は皮膚病です。手足の色素沈着、角化、さらに酷くなると、皮膚癌、膀胱癌、腎臓癌、肺癌といった癌がでてきます。手足の症状が出るまでに、飲料水中の濃度によって違いますが、だいたい一年から二十年、あるいはそれ以上経ってから発症するといわれています。皮膚症状などは初期の段階で発見して、原因を除去すれば消失するといわれています。また、ビタミンAとか総合ビタミン剤の投与が皮膚症状の軽減に効果があることが知られています。

 浅い井戸チューブ・ウエルですが、だいたい二千タカ、日本円にして四千円くらいでできるのですが、砒素の出ないといわれる200m以上の深い井戸を掘るには、一万五千タカから二万タカ、日本円で約三万から四万円かかるんですね。これは日本円にするとそんなに大したことがないように思われるかもしれませんが、向こうの人にとっては非常に大変な額で、高給取りの人の年収に相当するくらいの額なのです。

 飲料水の問題というのは、国とか地域の貧困度と非常に関係しています。これは一朝一夕では解決できないかもしれませんが、緊急課題なのです。良かれと思ってしたことが、逆に相手を苦しめて、窮地に追いやってしまうことが時として起こります。叡智を出し合って話し合い、相手の立場に立って解決を図っていくことが非常に大切なのですが、なかなかそううまくいかないのが現実です。国際協力の難しさというのが、こういうところにあるんだなと思います。

 

新型コロナウィルス感染症 最新の知識と対応の指針④ <予防行動・マスクについて>

日常生活での予防行動*(補遺)

1)対人間距離:感染者からの対人間距離を 1m 開けることでウイルス感染リスクは 0.12 倍に減少した。更に 1m 毎に減少効果は 2.02 倍となる事が推定された。
密閉された空間を循環する気流でも吹き付けられない限り、例えば屋外で 2m 離れると急速に感染危険性は下がり、3m で感染危険性は、ほぼ予防できる事になります。

2)フェイスマスク使用は感染危険性を 0.15 倍に減少させる。減少効果は N95 や同様のマスクの方が、使い捨てのサージカルマスクや同様のマスク、例えば 12~16 層の反復利用可能な布マスクよりも大きい。

3)防護眼鏡は感染危険性を 0.22 倍に減少させる。

マスクのくりかえし使用について*(補遺)

1)マスクの再利用について
再利用は「あくまで咳エチケット、つまり、気道分泌物を自分がふりまいたり、自分が他人のそれに直接接触する頻度を少なくするための使用」である事を理解の上でなければならない。
①パッケージ表記の確認
☆洗って使えるタイプ:ガーゼやウレタンスポンジ製マスクで洗濯可・再利用可等の表記があるもの ※選択方法がある場合には表記に従う。
洗って繰り返し使用可という表記の無いタイプ:洗っても機能上は元の機能を保たない。
洗って繰り返し使えるタイプでは無いマスクを洗って再利用するしかないときの
3つのポイント
☆中性洗剤で、もみ洗いでは無く、押し洗いをする。※漂白剤・柔軟剤使用は不可。
☆十分なすすぎをする。
☆熱に弱い材料が使われているマスクもあるため、型くずれを軽減するためにも乾燥機は使わずに十分に乾燥する。

2)基本的に外したマスクの再利用はおすすめできない
一般的に使われているサージカルマスク(不織布でできたマスク)は、内部の 3 次元的な網目構造を利用して病原体を吸着しています。そのため、不自然な形で折りたたんだり、洗ったりすると、この 3 次元構造が破壊され、効果がなくなってしまいます。ゆえに、一度外したマスクは再使用しないというのが基本です。
マスクの効果を保持するためには形を崩さないことが大切なので、マスクを静かに外したら、外した形のまま清潔な紙袋などの中に保管します。形を崩さず、湿気のない状態で保存することがポイントです。再び装着するときはマスクのひもを持ってそっと取り出し、やはりマスク表面には触れないようにつけてください。しかし、この方法は「最終手段」であって、二度、三度と使いまわすのはおすすめできません。

3)N95 マスクの除染(除菌)方法
N95 の除染(滅菌)方法
☆4 つの除染(滅菌)方法 (1)加湿熱、(2)紫外線(UVーC)、(3)過酸化水素蒸気、(4)時間の使用についての文献が引用されている。
(1)加湿熱の使用:N95 マスクの熱湿度による SARS-CoV-2 の不活性化については、さらなる検証が必要。加湿熱を使用した除菌は容易に実施可能・低コストの策の一つになり得る。しかし、過度の加熱サイクルは N95 マスクの密着性とフィルター性能を損なう恐れがある。さらにこの方法は細菌やカビのリスクからは保護されない。
(2)紫外線(UVーC の使用:センサーを利用し、適切に 1.0J/cm2 以上の UV-C 線量を N95 マスクに照射できれば、この方法で SARS-CoV-2 を不活化できる可能性は高い。
しかし、これはまだ SARS-CoV-2 で直接検証されたわけではない。
(3)過酸化水素蒸気の使用:「 マスクの例外的取扱いについて(厚労省通知令和 2 年 4月 10 日)PDF」で紹介されている除染の方法。N95 マスクに有機物が付着していない限り、SARS-CoV-2 と細菌芽胞を不活化する可能性がある。ただしこれらの方法において必要とする除染時間と推奨の最大使用回数は完全に異なり、誤った使用は除染の失敗やN95 マスクのフィルターおよびフィット性能を損なう可能性がある。
(4)時間を用いた室温での除染:他に選択肢がない場合、使い捨てタイプの N95 マスクの再使用は、間隔をあけて適切に保管することで、SARS-CoV-2 を十分に不活化する可能性がある(FDA はウイルス活性が 1/1000 に減少した場合に不活化したと規定)。
清潔な状態で、室温で 7 日間保管すれば、ほとんどの状況で十分な SARSCoV-2 の不活化が得られる可能性がある。この方法では、細菌やカビの重感染のリスクに対して除染を行うことはできない

N95 マスクの再利用時の注意:以下の方法(X)は N95 マスクの濾過効率を著しく低下させるか、または生物学的汚染物質を十分に不活化できない。N95 マスクの除染には使用しない。
×)石鹸水:石鹸水に浸漬すると複数の N95 モデルで濾過性能が低下する。微粒子を付着させやすいように帯電しているフィルターの帯電性が落ち性能が低下すると考えられる。
×)アルコール:フィルターに直接ダメージを与え、性能が低下する。
×)漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム):漂白剤を含む溶液に浸漬すると N95 マスクの濾過効率が低下する。ただし、漂白剤を含むワイプ(0.9%次亜塩素酸塩)で 3 回拭いてもいくつかのモデルの N95 マスクには損傷を与えないことも示されており、表面を拭くなどには利用できる可能性がある。また、漂白剤の残留には健康リスクがあり、特に喘息や過敏症のある人には危険。
×)一晩の保管:SARS-CoV2 は環境表面で 3 日間以上、活性維持できることが報告されている。室温で一晩置いただけでは N95 の除染は十分でない。

 

 ひとりひとりの綿密な行動が、自分の健康を守り、
それぞれの役割を全うする事をもたらしてくれます。

新型コロナウィルス感染症 最新の知識と対応の指針 ④ <消毒について*(補遺)>

消毒

1)手指消毒:不特定多数が触れる可能性の有る場所に触れた場合には、エチルアルコールなどによる手指消毒を行って下さい。
☆自宅を出た後、どの様な物体に触れたのか、記憶にあるなしに関わらず、建物・室内空間に入った時、エチルアルコールなどの消毒液が出入り口に設置してある時には必ず、入った時にも出る時にも手指や手のひらを消毒して下さい。
☆ショッピングセンター、スーパー、他の施設でも手指消毒用エチルアルコールが設置されている時には積極的に使用して下さい。
エタノールが売り場の棚から消えています。その為、塩素系消毒剤で手指を消毒しているという話しを聞くことがあります。しかし、塩素系漂白剤は肌荒れを引き起こします。
☆薄めたものでも、塩素系漂白剤が皮膚に付いたときはすぐに水道水で洗い流し、石鹸を使って“ぬるぬる”を感じなくなるまで流してください。
☆塩素系消毒薬を使う時や、誰が触ったか分からないものを取り扱う時には、ゴム手袋やナイロン袋*ごしに触って下さい。
*薄いナイロン袋は手袋の代わりになります。袋を手にかぶせて取り扱って下さい。触り終わったらくるくると裏返しながら手から外し、袋の口近くを縛ってそのまま捨ててください。但し、スーパーの荷詰め台にある薄いナイロン袋の独り占めはご法度・マナー違反です。
☆環境物体に触れる場合、下記2)に列挙された環境・物体に触れる、若しくは触れた場合には作業前後の手指消毒を忘れないで下さい。

2)環境消毒の重要性
新型コロナウイルスは物体表面で数日間は感染性を持っています。環境消毒が重要です。
☆物体表面でのウイルス生存期間
金属表面 ≦5 日(最長 5 日間)
プラスティック表面 ≦9 日
木材 ≦4 日
紙 ≦5 日
ラテックスグローブ ≦8 時間
ディスポーザブルガウン ≦2 日

3)どこを、何を消毒するか?
汚染場所は多岐にわたっています。手や物に一度、付着した後は、生活環境のあらゆる物体の表面に付着が拡がります。しかも、物に付着した新型コロナウイルスは、上に揚げた「☆物体表面でのウイルス生存期間」にあるように長期間、感染性を保っています。これらは通常の清掃で大体消失しますが、直接触れるものは、きちんと消毒して下さい。

☆感染者の過ごした空間には、“ウイルスが、蜂蜜のようにベッタリ付いている”と思って下さい。
新型コロナウイルスを可視化出来る蛍光色素があります。患者さんが生活していた部屋にその色素を撒いてから、部屋を暗くして撮った写真をで見ました。その部屋では、生活空間で手が触れたものすべてにべったりとウイルスが付着してきらきら光って見えました。
ウイルスは、床はもちろん、天井まで飛んで付いていました。
“蜂蜜のように”という表現はその時に思い浮かびました。まさに蜂蜜が付いた手であちこち触り、物に付き、その物が置かれたところにも蜂蜜が付いた、といった様子でした。

☆消毒する場所・もの
ロッカー、床、椅子、ベッド、ベッド枠、窓、照明スイッチ、排気口、ベッド柵、洗面所、洗面所シンク内側、
エレベーターのボタン、カウンター、電話・Fax 機器、トイレのドアノブ、トイレ壁、
床・天井、便器の中など

4)環境消毒に使用する溶液
次亜塩素酸ナトリウム:汚染可能性の有る箇所には塩素系消毒剤を 0.21%に希釈したものを使用します。
次亜塩素酸水:エタノールの替わりに、次亜塩素酸水を使う事も出来ます。次亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウムと同様に、安全で食品添加物にも許可されています。しかし市販品はかなり高価です(現時点では、エタノールが品薄で高価になっていますので、差はほとんどなくなっています)。自宅で合成する機器が発売されていますが、有効濃度が次亜塩素酸ナトリウム 0.21%の効果以上の力価になっているかどうかの確認が必要です。
とくに、効果は PH の値によって大きく変化し、微弱酸性状態で高い効果が現れます。その一方、化学的に不安定なため保管方法や使用期限に注意することが不可欠です。
☆次亜塩素酸水はインフルエンザウイルスなどではエンベロープ(膜)構造を破壊することで不活化させます。新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスと同じ構造(エンベロープ構造)を持つウイルスですから次亜塩素酸水は新型コロナウイルスにも同様の効果を示す筈です。むしろ次亜塩素酸ナトリウムよりもその効果が大きいとされています。

(補遺)
以下の条件を満たす場合に新型コロナウイルス消毒に有効であることが確認されました。
a、次亜塩素酸水(電解型*1)は有効塩素濃度 35ppm 以上、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(非電解型*2)は有効塩素濃度 100ppm 以上
b、次亜塩素酸水の利用に当たっては、汚れ(有機物:手垢、油脂等)をあらかじめ除去すること、対象物に対して十分な量を使用する次の注意が必要であることが必要。
(*1電解型次亜塩素酸水:食塩水や塩酸を電気分解して生成した次亜塩素酸水。
*2非電解型次亜塩素酸水:電気分解以外の方法で製造された次亜塩素酸を主成分とする酸性の溶液。次亜塩素酸ナトリウムに酸を混合するなどの製法、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムなどの粉末を水に溶かすことでつくる次亜塩素酸水など。)
界面活性剤(洗剤):家庭や職場でのアルコール以外の消毒方法として次の 9 種類の界面活性剤が有効と判断されました。
・直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)
・アルキルグリコシド(0.1%以上)
・アルキルアミンオキシド(0.05%以上)
・塩化ベンザルコニウム(0.05%以上)
・塩化ベンゼトニウム(0.05%以上)
・塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(0.01%以上)
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)
・純石けん分(脂肪酸カリウム(0.24%以上)
・純石けん分(脂肪酸ナトリウム(0.22%以上)
これらを含む市販の洗剤については NITE ホームページで具体的な情報が得られます。

☆ 「 効 果 が 確 認 さ れ た 界 面 活 性 剤 を 含 む 有 効 界 面 活 性 剤 を 含 む 洗 剤 リ ス ト 」
https://www.nite.go.jp/information/osirasedetergentlist.html

☆「家庭用洗剤による消毒動画」

https://www.youtube.com/watch?v=38HY_4-5sCU&feature=youtu.be


市販の塩素系漂白剤液の原液から消毒用液(0.21%*)をつくる方法

次亜塩素酸ナトリウムは、一般的に「塩素系漂白剤」(塩素濃度約 5%、または 10~12%)として販売されています。
☆薄めた消毒液は時間が経つにつれて効果がなくなりますので、使うときに原液を希釈して必要な量だけ作り、作り置きをしないでください。
次亜塩素酸ナトリウムは日光によって分解され殺菌力が低下します。原液は直射日光の当たるところや、高温の場所には置かないでください。
☆☆薄めた塩素系漂白剤を入れたペットボトルには、消毒液であることをはっきりと表示してください。
☆ペットボトルのキャップ 1 杯の容積は、約 5ml とされています。注射器で液を入れながら測定したところ、キャップの縁よりわずかに下で 5ml となるようです。
☆漂白剤キャップは約 20~25ml で、ペットボトルキャップの約 4 倍ありますから間違わないように注意して下さい。
☆注意:必要な分だけ作って使用し、作り置きは避けて下さい。
☆原液は刺激性が大きいため、溢れさせるぐらいまで入れながらはかる事は避けてください。大体の目安でも仕方ありません。
☆0.1%への希釈法しか載っていない場合には、原液使用量を 2 倍にしてください。

◎ミルトン(他製品ではミルクポン、ピュリファン)
原液濃度は 1%です。
0.21%液調整手順:ミルトン 1%を 4.76 倍に薄める。
①原液 21ml(ペットボトルキャップで約 4 杯)を空の容器に移す。
②水を 100ml のラインまで加える。

◎原液 5%の場合(ハイター、ブリーチ、ジノック)
①500ml ペットボトル 1 本からペットボトルキャップ約 4 杯(21ml)の水を捨てる。
②塩素系漂白剤原液をペットボトルに、キャップ約 4 杯(21ml)入れる。

◎原液 6%の場合(キッチンハイター)
①500ml ペットボトル 1 本からペットボトルキャップ 3 杯と 3/4 杯(17.5ml)の水を捨てる。
②塩素系漂白剤原液をペットボトルに、キャップ 3 杯と 3/4 杯(17.5ml)入れる。

◎原液が 10%の場合(ピューラックス 10、ハイポライト 10)
①500ml のペットボトル 1 本からペットボトルキャップ 2 杯(10.5ml)の水を捨てる
②塩素系漂白剤原液(次亜塩素酸ナトリウム)をペットボトルにペットボトルキャップ 2
杯強(10.5ml)入れる。

☆上記以外の製品の時には、ボトルに記載の濃度・インターネット製品情報もしくは直の会社への問合せをもとに、用途に応じ、薄めて使用してください。

 

薄めた塩素系消毒剤の使用

注意(追加):
☆商品に記載してある使用方法をよく確認し、特に次のことに注意して使用してください。
☆使用するときは、換気を十分に行ってください。
☆拭き取りに使用したペーパータオルは他のものに触れないようにして捨てて下さい。
☆酸性の強い洗剤と混ぜると有毒ガスが発生しますので注意してください。
次亜塩素酸ナトリウムには、腐食作用・漂白作用(変色や色落ち)があります。使用後はしっかりと水で洗い流すか水拭きをしてください。
☆消毒液が皮膚や衣服についた場合は、直ちに水で洗い流してください。
☆皮膚への刺激が強く肌荒れを引き起こします。使用時には皮膚へ直接触れないよう、必ずビニール等の手袋を使用してください。また手指消毒には使用しないでください。
(再掲)薄めたものでも、塩素系漂白剤が、手やその他の皮膚に付いたときはすぐに水道水で洗い流し、石鹸を使って“ぬるぬる”を感じなくなるまで流してください。
☆金属部分に使用する場合は、錆びたり変色したりすることがあるため注意が必要です。使用後 10 分程度経ったら水拭きをしてください。
☆スプレーボトルでの薬液の噴霧はウイルス飛散の可能性があるため好ましくありません。
購入物品の表面殺菌用の紙に薬液を浸み込ませるため吹き付けるのは構いません。
☆薄めた塩素系消毒剤の使用法
①利き手に、紙(ペーパータオル、ティシュー等)を持ち、希釈済みの塩素系消毒剤を十分に浸み込ませ、対象となる環境・物体を拭く。(拭く場所が濡れている場合には水分を拭き取った後に行ってください。)
使用後の紙は捨てる。
②金属類は錆を作る可能性が大きいので、後で渇いた紙で拭きとっておく。
③買い物でも汚染されている可能性の有るものは包装のまま同様に拭いて消毒する。
④塩素系消毒薬がまだ乾いていないものは、段ボールの箱に入れ、箱ごと通気の良い場所に放置して表面の乾燥を待つ。
乾燥後は素手で触れても特に問題は無いが、その手で眼をこすったりはしない。

 

ひとりひとりの綿密な行動が、自分の健康を守り、
それぞれの役割を全うする事をもたらしてくれます。

こころの豊かさを求め、自分探しの旅(母校での講演より)<5> (3/3)

バングラデシュの医療事情(つづき)

 この国の乳児死亡率というのは、出生1000に対して82です。1年に約37万人が1歳の誕生日を迎える前に死亡します。さらに、約27万人が5歳までに死亡します。5歳までに60~70万人も死んでしまうという事なんです。この死亡の原因というのは、多くは下痢・栄養不良によるといわれています。毎日毎日食べる物が無くて、大勢の尊い命が失われているのです。

 ある時、ボグラの病院にぐったりした"バッチャ"が来ました。この"バッチャ"というのは"おばあちゃん"ではなく、ベンガル語で"赤ちゃん"のことをいいます。ベンガル語というのは東北弁に似ているんですね。ですから東北弁を聞いているような感覚で、すぐに馴染むことができました。このバッチャ、小さい乳幼児のことなんですけれども、母親に抱かれてやってきました。見ると、骨と皮しかないのです。目が天井を向いていて、意識がほとんどありません。明らかに栄養失調と脱水で、入院して点滴をしなければなりません。一刻の猶予もないのです。そのことを母親に告げると、首を横に振って「家には他に世話をしなければねらない15人の子供がいる。お金も無い、入院させるわけにはいかない。こんな子は要らない、死んでもいい。病院で勝手にやってくれ、置いていくから。」と言うんです。そんな押し問答をしている間に、子供は急変して手当ての甲斐なく帰らぬ人となってしまいました。ショッキングな出来事でした。そして「こんな子、どうなってもいい」と言っていた母親でしたが、その子を抱きしめながら泣いて帰っていきました。このお母さんにとっても、一人の子も大切な大切な子.....尊い命だったのです。

 日本人が捨てる食べ物だけで一千万の人が生きられるという統計があります。日本のホテルで顧客に出される食べ物のうち、人様の胃袋に収まるのはわずか55%で、他は全部捨てるのだそうです。凄まじいまでの食糧の無駄。このことに心の痛みを覚えない人たちのいる日本という国は豊かといえるのでしょうか。飢餓寸前の人が、開発途上国を中心に世界に一億五千万人いるといわれています。豊かな国にあって、豊かな心を忘れた私たちは問われているのです。

 マザー・テレサは次のように言っています。

「あなたは、この世に望んで生まれてきた大切な人。あなたがなんであり、どこの国の人であろうと、金持ちであろうと貧乏であろうとそれは問題ではありません。同じ神様の子供、かけがえのないあなたです。大切なことは、どれだけ沢山のことをしたかではなく、どれだけ心を込めたかです。わたしたちは忙しすぎます。微笑みを交わす暇さえありません。ほほ笑み、触れ合いを忘れた人がいます。これはとても大きな貧困です。」と。彼女が初めて日本に来た時、日本の姿を見て顔を曇らせ、心を痛め涙したといいます。物質的に豊かに繁栄した先進国日本の大都会を見て、カルカッタの悲惨な状況をそれに重ね合わせ、その不合理さに涙したのでしょうか。決してそうではないのです。彼女は、病んでいる日本を鋭く見抜いたのです。有り余るほどの物に囲まれ、何不自由なく生活している豊かな日本に、逆に心の貧しさを見て取ったのです。か弱な、皺だらけの修道女、マザー・テレサ、彼女には強くて皺のない精神が宿っていました。貧しい人、人々から見捨てられ、路上で死にそうになっている人に徹底的に仕えたのです。その姿というのは、現在に生きる私たちに残された貴重な遺産なのです。迷える二十世紀最後を照らし、二十一世紀の大きな指針を私たちに示しているように思えるのです。

 マザー・テレサのいるカルカッタというのは、バングラデシュの一番近い都市から30キロしか離れていないのです。ですから同じような状況というのが、バングラデシュの中でもあちこちで見られるという事なんです。彼女は1979年にノーベル平和賞を受け、1997年9月5日に昇天しております。

こころの豊かさを求め、自分探しの旅(母校での講演より)<5> (2/3)

バングラデシュの医療事情(つづき)

ここは外来です。

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これは手洗いをしている所です。普通の水道水で洗うんです。消毒も何もされてない所でやるので、非常に不潔なんです。

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これが麻酔器です。

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見たことがない方には分からないかもしれませんが、これは野戦病院にあるような麻酔器なんですね。しかもエーテル麻酔なんです。エーテル麻酔は学生時代教科書では習った事はありますが、実際に現場で見たのは初めてでした。今、エーテル麻酔というのは使わないんですね。電気メスを使うので爆発の危険性があるという事と、麻酔深度に非常に問題があって、麻酔がかかりにくい、かかっても非常に深かったりとコントロールが難しいというので全然使われないんです。しかも、専門の麻酔科のお医者さんがいません。最近やっと増えてきましたが、看護助手が麻酔をかけます。

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こういう風に手前がナース、その奥で患者さんに寄り添って麻酔をかけているのが看護助手です。ですので、麻酔というのは挿管もしないでやります。マスクでかけるので、脇からガスが漏れてきます。そうすると、手術をしている私まで眠くなってくるんです。さらに悪いことに、麻酔の深さが深いと、呼吸停止と心臓が停止してしまいます。腹の手術では、出血の色が今まで赤かったのが急に真っ黒になってきます。見るともう心臓も停止して、呼吸まで停止しているんですね。急いで心臓マッサージをして事なきを得たというのがもう十回位ありました。ここ3,4年でやっとエーテル麻酔がなくなって、麻酔科医がきちっと麻酔をかける体制が出来てきたので、その点は安心になってきました。それから、停電がしょっちゅうあります。ですので、懐中電灯の中で手術するという事を数多く経験させられました。これがバングラデシュの医療事情なのです。

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この子はお腹に膿が溜まって熱が下がらないという事で診たのですけれども、肝臓に膿が溜まってお腹がパンパンに膨れていました。切開したら膿がドロドロ出て、膿盆一杯どころか三杯程出てきました。ですが、手術が終わって次の日にはもうケロッと、熱も下がって元気になりました。

 

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これは回診の風景です。

 この国では右手に障害がありますと特に悲惨です。バングラデシュでは右手は清い手です。この子は右手に障害がありました。摘まんだり握ったり出来なかったんです。ですから、食事をする時には、家族の食事が全部終わった後で、一人で誰も見ていない所で食べていました。今では右手が使える様になったので、「手が使える様になったよ」「握ることもできる様になったよ」と、物を掴んで拾ってくれました。

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彼女の生活は一変しました。今まで一回も家から出た事がなかったのに、今では学校に通っているのです。そして将来は看護婦さんになりたいと、目を輝かせて話してくれたのを非常に印象的に覚えています。 (つづく)

こころの豊かさを求め、自分探しの旅(母校での講演より)<5> (1/3)

バングラデシュの医療事情

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ここは私達が行っていた医療協力の中心地、ボグラ病院です。

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ここは手術室です。

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これはレントゲンの器械です。こんなちゃちなレントゲン器械なので、ちょっとした単純写真くらいしか撮れません。

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これは日本から持って行った超音波の古い器械です。

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これは胃カメラの装置です。

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また向こうの病院には、普通の人が入れない様に鉄格子で柵がしてあります。必ずどの病院もです。大学病院でも一般の人が入れない様に番人がいます。そうでないと、どんどん入って来てしまってシッチャカメッチャカになってしまします。

 バングラデシュにはたくさんの医学部や病院があります。お医者さんも大勢います。しかし、貧しいがゆえにその状況は決して良いとは言えません。一口で言えば、医療のレベルが日本に比べて非常に遅れています。例えば設備で言えば、レントゲン機械、超音波、心電図が揃っていればいい方なのですが、大学病院でさえ無いという所もあります。胃カメラなどは、限られた専門医の病院にしかありません。しかし、そういう専門医から送られてる診断というのも、誤診が非常に多いんですね。これが本当に専門家なのかと疑ってしまいます。外科の手術に至っては、手術後の合併症というのが必発です。これは医者の教育に問題があるからなんですね。というのは、手術の仕方を上の先生が下の先生に決して教えません。教えると、将来自分のライバルになって患者を取られる恐れがあるからです。ですので、テックニックは見て覚えて盗むしかないんです。ボグラの病院に勤めている先生を私が何回か指導したのですけれども、日本にも来て3か月研修していきました。外科の手術の初歩と、胃カメラとエコーを学んでいきました。短い期間だったので、ほとんど何も自分でできないのです。しかし、バングラデシュに帰ると、彼は「日本に留学してライセンスを取った」という看板を出して開業したんです。それだけで大勢の患者さんが集まって流行っているんです。彼も技術的にはまだまだなのに、そういう形で開業して成功することが出来るんです。

 医療事情で非常に困った問題があります。清潔・不潔の問題です。こういう事がありました。手術中に私が誤ってハサミを落としてしまいました。もちろんそのハサミは不潔です。別の新しい消毒されたハサミを出すようにお願いしました。すると、床に落ちたハサミをナースが右手で拾って手渡そうとしたのです。「そのハサミはもう不潔だから駄目だ。」と言うと、「なんで私の右手が不潔なんだ。」と怒るんです。忘れていました。ここはイスラムの世界です。イスラムの世界では、右の手は清い手、左の手は不浄の手なのです。食事は右手でします。トイレは左手です。笑い話のみたいですが、これが現実なんです。教育するのに非常に時間が掛かった事がお分かりになると思います。ここバングラデシュでは、日本の手術室の様に設備が整っていません。何でも揃っている所でしか手術をやった事のない、日本の優秀な外科医がここに来ると手術が出来なくなります。道具が揃っていないからなんですね。ここでは工夫しないとやっていけません。例えば、腰の椎間板ヘルニアというのがあります。そういう患者さんは、腰を引っ張る牽引装置、日本には素晴らしい牽引装置がありますが、ここにはありません。でも、心配は要りません。どうするかと言いますと、腰に厚めの布を巻きます。それをロープで縛って、向こうには乳母車があるので、その車を滑車にします。そしてバケツもありますから、バケツに砂を入れて、そのロープに縛るわけです。そしてベッドの外に下げる事で、腰を引っ張る事が出来るのですね。また、こんな事もありました。手の手術をする時、非常に細かい手術で顕微鏡を使います。脇の下に麻酔をし、その後脱血します。ゴムバンドを手からずぅーと巻いて、上腕の所まで締める事によって、手術で切開しても血が出ません。そういった手術があるのですが、ここにはそういう機械がありません。それでも心配ありません。血圧計があります。それからタイヤのチューブもあります。タイヤのチューブをぐるぐる巻きにすれば、同じ様な事が出来るんです。このように、工夫すればほとんど同じ様にする事が可能なんです。しかし、大丈夫でないのが麻酔なんですね。麻酔は非常に大問題でした。 (つづく)

こころの豊かさを求め、自分探しの旅(母校での講演より)<4> (2/2)

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これは独立記念塔です。バングラデシュが31年前に独立を勝ち取った記念として建て、人々がそれを忍び、戦没者を祭っています。また、この塔は一つの観光名所になっていて、こういったところに物売りの女の子等がよくいます。

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こういった広い道路もあります。

f:id:obusenosato:20200715170629j:plainこちら国会議事堂です。非常に大きな建物です。

 

 田舎の方に行きますと、現金収入がありません。最近では青年海外協力隊が「現金になるようなこと」ということで、コミュニティを作って指導しています。麻が非常によく採れるので、麻で帽子を編んだり、篭を編んだりして、都会の方で売って現金収入を得ています。もう少し高度になると、刺繍を施すようなことをして、外国人向けに都会の方に卸してやることによって農家が潤ってきます。このようにコミュニティ単位で協力し合い、現金収入を得ようという動きがでているのです。

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これは麻を干しているところです。

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これは何だと思いますか?これは藁を積んでいるのではなく、トイレなんです。裕福な家庭のトイレなんですね。

 

 手術をした後、元気になった子のお見舞いに行きました。中流の上の家庭なんですが、生活をちょっと見て頂きたいと思います。

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炊事場には土間があります。これで火を焚いてカレーを作ります。簡単な食器類もあります。こういったものがあるのが、田舎で言えば非常に豊かな暮らしとなります。

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これはジャック・フルーツといいます。聞いたことがあるかもしれませんが、ドリアンと同じもので、フルーツの王様と言われています。美味しいから食べてみろと言うんです。臭いは物凄いですよね、最初にしては。ですが、食べてみると非常に美味しかったです。